ゲーム音声制作における変化

言語サービス プロバイダーから制作パートナーへ


ゲーム音声制作における変化についてご紹介するブログ シリーズの最後の記事となる今回は、ライオンブリッジ ゲーミング部門ゲーム コンテンツ担当の新任プロダクト マネージャー、Nicolas Underwood が、このシリーズを通して明らかになったゲーム音声サービスの現状と将来についてお話しします。

遅れてきた IT 革命

筆者がゲームを専門とする LSP でプロジェクト マネジメントの経験を積み始めた 2000 年代初頭を振り返ると、翻訳チームはほぼすべての案件で Excel ファイルを使用して作業していました。そのファイルをメールを介してフリーランス翻訳者とお客様のローカリゼーション チームの間でやり取りしていたのです。多くの大手ゲーム制作会社は、ほとんどの LSP よりも多くの言語専門家を自社で抱えていました。また、言語ごとにそれぞれ異なる LSP を利用するケースが多くありました。当時、ゲーム音声制作は、ほとんどがテレビや映画業界の吹き替えで使用されていた制作手法やツールを流用して小さな規模で扱われていました。

時を進めて 2018 年には、翻訳業界では CAT ツールや、LSP によるクラウド型・集約型の多言語プロジェクト マネジメントによってすでに革命的な変化が進んでいました。ローカリゼーションにかかるコストは実質的に下がり、成長を続けるグローバル市場に、規模の大小を問わず多くのスタジオが参入しやすい環境が整いました。

ところが、ゲーム音声制作については奇妙なことに 20 年前と変わらないままでした。もちろん多少の変化はありましたが (Excel のスクリプトに多数のマクロが使用されるようになるなど)、翻訳業界に大きな変化をもたらした、テクノロジーと市場主導型の革新は音声制作の現場には訪れていませんでした。

私たちは、本ブログ記事シリーズを通じて音声制作においてもこの革新がようやく始まったことをお伝えしてきました。この変化が大きな転機をもたらすものであることは間違いありません。


音声のグローバル化

成長を続けるゲーム市場向け音声制作の支援に関するブログ記事では、当社の専門家、Haruhiko Inaba と Balzac Chang が、拡大するゲーム音声のグローバル市場における課題と可能性についての考察をご紹介しています。音声を活かしたゲームにも対応できるスマートフォンが登場し、東南アジアの巨大なモバイルファースト市場に浸透するに伴い、高質のゲーム音声を求める声も従来の PC ゲームやコンソール ゲーム市場よりも多くの言語や市場で高まっています。プラットフォーム非依存型のゲームが今後増加することで、この傾向は続いていくでしょう。同時に、北欧をはじめ、トルコやベトナムに至るまで世界中で音声市場が拡大しており、ゲーム制作会社にとっては収益拡大のチャンスが広がっています。

対象の言語が増えてくると、各社が社内で音声のローカリゼーションに対応するのは難しくなります。ゲーム制作会社や配信会社は、多言語の音声に対応する少数の LSP を頼るようになり、翻訳と音声制作をまとめて同じプロバイダーに依頼するのが標準的になりつつあります。そうすることにより、制作会社がやり取りしなければならない LSP やスタジオの数を抑えることができ、煩雑な管理の多くの部分を LSP に任せられるようになります。ゲーム制作会社が複数の LSP との関係を維持している場合、それぞれのプロバイダーへの割り当ては、言語ごとではなく、タイトルや IP ごとになるケースが多くなっています。

音声制作のグローバル化に伴い、LSP には規模への対応力だけでなく、新しい地域で迅速にスタジオ基盤を築くためのノウハウや、グローバルなネットワークを統合するテクノロジーが求められています。また LSP には、音声チームが言語チームと連携し、一連のサービス全体で効果的な協働を可能にする体制も求められます。行き届いた管理を維持しながらもお客様とのやり取りをシンプルに保つには、内部のコミュニケーション、レポート、ダッシュボードが重要になります。

音声の費用対効果の最大化

Inaba と Chang によるブログ記事で指摘されているように、音声のグローバル化に伴ってマーケティング チームは市場機会の多様性に直面することになり、プラットフォームごとの切り分けが難しくなります。こうした市場における音声ローカリゼーションの費用対効果 (ROI) を判断するには、そのためにさらなる調査やプレイヤー テスト、投資が必要になる可能性があります。LSP は対象市場のエキスパートとして、お客様が市場の選定やローカライズ音声の付加価値について、データに基づく意思決定ができるよう支援できる必要があります。

このような ROI にかかわる判断では、ゲーム音声に対する期待はすべてのゲーマー、またすべての市場で同じではないことも考慮されることになるでしょう。ゲーム音声業界は、従来テレビや映画向けに高品質の吹き替えが使われている国々や地域でリリースされた AAA ゲームを背景に成長してきました。 しかし、もはやワンパターンの対応では不十分となっています。

ライオンブリッジ ゲーミング部門の音声に関するブログ記事のいくつかでも、世界的規模の IP 作品の主要各言語版で優れた音声を実現するために必要なカスタマイズについて触れています (「ゲーム業界における自動化」、「現実世界の多様性を反映したゲーム ボイス」、「オリジナル版とローカライズ版の音声制作を統合」をご覧ください)。つまり、優れた適応力を備えたソリューションが求められているのです。音声制作の幅が広がる中で、ゲーム制作会社がこのような収益源を獲得するためには、ROI を考慮した上で、音声制作をそれに相応しい価格で行うことが重要になります。

制作サイクルの短期化

中間言語としての英語」というブログ記事では、当社の言語品質担当ディレクターの Eva Herreros とプロジェクト マネージャーの Cheonjo Kong が、モバイル ゲーム開発では一般的で、ゲーム業界全体でも活用されているプロダクション モデルにおける「中間言語」について、その課題を掘り下げています。制作サイクルの短期化という課題も、Richard Saadat と Tom Hays による「オリジナル版とローカライズ版の音声制作を統合」および Guillaume Capitan と April M. Crehan による「シナジー効果とコスト削減: 翻訳、音声、ローカリゼーション QA の統合」で取り上げられています。

制作サイクルの短期化、対象言語の増加、中間言語の増加、全言語同時リリースの必要性が相まって、非常に大きな課題となっています。音声ローカリゼーションのワークフローに特有なスケジュールの依存関係を解消するために、新しいテクノロジーや新しい作業の進め方が必要となっています。


将来への対応力を備えたライオンブリッジ

ライオンブリッジの対応はどうなっているでしょうか。

ライオンブリッジでは、「ゲーム音声のための新しいクラウド プラットフォーム」で David Rodriguez がご紹介しているように、当社独自のテクノロジーをゲーム音声制作に取り入れています。これは、翻訳における CAT ツールの導入と同じような革新的変化をもたらすものです。当社が実施する音声収録作業では、過去 18 か月にわたって Excel ファイルはまったく使用されていません。この当社独自のテクノロジーが採用された背景には、環境が変化する中でお客様のニーズにお応えするにはどのように音声制作サービスを提供すべきか、という点についての再検討がありました。

世界各地のスタジオ チームが単一のテクノロジーを通じて一つにまとまることで、プロジェクトのモニタリングやコンテンツ管理が大幅に簡素化されます。当社のプラットフォームでは、すべての言語チームがアセットの更新をリアルタイムに確認でき、各言語のファイルごとの進捗確認、すべての問題のレポート作成を一元的に行うことができます。このテクノロジーにより、当社がスタジオを新設した場合も、新しいチームは短期間で同じプロセスを使用できるようになります。ダッシュボードは単にプロジェクトの管理に役立つだけでなく、お客様とも共有することができます。

シナジー効果とコスト削減」では、Lionbridge Games Cloud が、当社が他の分野での導入に成功してきた統合サービス モデルのテクノロジー コンポーネントであることを説明しています。「オリジナル版とローカライズ版の音声制作を統合」では、オリジナル版とローカライズ版の音声制作を組み合わせることによる効率性の向上に注目しています。

さまざまな言語、サービス、ゲームのバージョンに対応するチームが共通のプラットフォームでまとまることで、ウォーターフォール型の依存関係による問題が軽減されます。全体の流れが常に管理された状態で、ワークフローを共有しながら制作を進めることができます。進歩と改善においては、このようにさまざまな分野のチームが深い製品知識を蓄積していくことが重要であり、カスタマー サポートに頼らない問題解決につながります。

音声制作自体の上流工程については、ライオンブリッジではコミュニティ チームを通じたプレイヤー テストや市場調査の能力の拡充を続けています。プレイヤー テストは ROI の評価に役立つだけでなく、ローカリゼーション プロセスの情報源にもなり、対象地域の市場で否定的な影響が出るおそれのある要素をゲーム コンテンツから切り分ける上で有用です。ライオンブリッジのナレーティブ デザイン チームでは、このようなインサイトを活用することでより良い結果を追求しています。

サービス プロバイダーから制作パートナーへ

総じて、ゲームの LSP とゲーム制作会社の関係は、お客様の管理のもとでのカプセル化されたサービスの提供という形から、複数のサービスにまたがるより深いプロジェクト/IP ベースの協働という形に移行しつつあり、LSP がそれらのサービスを直接管理する度合いが高まっています。このような現状、そして今後 LSP に求められるのは、あらゆる規模に対応でき、世界中の言語に対応できるノウハウを持っていること、さらに円滑なコミュニケーションを実現し、ますます要求の高まる制作スケジュールにも対応できる社内体制とテクノロジーを備えていることです。ライオンブリッジ ゲーミング部門は幅広い統合サービスでこれらの分野をリードしており、音声制作を取り巻く環境の変化にも十分に対応しています。

ライオンブリッジでは、お客様のプロジェクトに関するご相談をお待ちしております。御社の優れたゲーム作品の制作にご協力できることを楽しみにしております。


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著者
Nicolas Underwood