ゲームのマーケティング戦略

挑戦と解決方法


数多くのデベロッパーやパブリッシャーがゲーム タイトルのマーケティングに苦労しています。同じ課題を共有していたとしても、気後れは不要です。ゲーム業界のマーケティング、あるいは他分野のマーケティングに携わった人ならだれでも、マーケティングは見かけによらず難しいことを知っています。実際、ゲーム開発のプロセスにおいては最も難易度が高いステップとなることもあります。

もちろん脚本の執筆やデザイン、コーディング、テストも大きな苦労を伴うプロセスです。しかし「プレイしたい」と思わせるほどに人々の心を動かす難しさは、まったく別次元です。激しい競争、上がり続けるコスト、増え続ける対応プラットフォームなど、ゲーム業界のマーケティングの過酷さは 60 年代のテレビ ドラマ『マッドメン』並みです。

状況がそれぞれに異なっても、総じてゲーム業界でのマーケティングが難しくなってしまう背景にはいくつか大きな理由があります。本記事では、ゲーム マーケティングを複雑化させる要因と、その対処方法をご紹介します。

ゲームのマーケティングが難しい理由トップ 6 はこちらです。あわせてその解決策もご覧ください。

1. 複雑すぎる。

マーケティングの範囲は、世間が考えているよりも膨大です。

ゲームのウェブサイト、SNS のハンドル ネーム、ベータ メール、コミュニティ マネージャー、プレイヤーのフィードバック アンケート、インフルエンサーの活動、メディア取材、ウェブサイト広告、YouTube 広告、テレビ CM、コンベンションのブース、Game Awards のトレーラー、無料配布物、デジタル ストアや実店舗での販売、提携グッズなどなど…

…このすべてが「マーケティング」です。キャンペーンの考案、メディアでの発表、レポート、リサーチ、適法性の確認さえもマーケティングの管轄に入ります。

ゲーム コンテンツにおけるスーパージャンルやサブジャンルのように、人によってはマーケティングを 20 の領域に区分することもあります。とあるマーケティング オタクが業務領域を細分化した場合、こんな感じです。

従来型マーケティング:

  • アウトバウンド
  • 印刷物
  • マスメディア
  • 商品
  • パートナー マーケティング
  • 広報 (PR)
  • 口コミ
  • ステルス マーケティング
  • ブランド マーケティング
  • コーズ マーケティング
  • 経験価値マーケティング
  • イベント マーケティング

デジタル マーケティング:

  • コンテンツ マーケティング
  • アフィリエイト マーケティング
  • インバウンド マーケティング
  • 検索エンジン マーケティング (SEM)
  • SNS
  • メール
  • モバイル
  • デジタル広告 (CPM、PPC、CPV など)

その他の分野:

  • B2B (法人向け) マーケティング
  • B2C (消費者向け) マーケティング
  • マーケティング分析

ご覧の通り、かなり複雑です。マーケティングについて理解しておくべきポイントは、長年の経験と専門知識が求められる独自の分野だということです。社内の人手が足りない場合やノウハウがない場合は、パブリッシング サービス会社に相談したり、評価の高いベンダーにマーケティング業務をアウトソーシングすることも選択肢の 1 つです。パートナーには、ゲーム業界で確固たる実績を持つ企業を選びましょう。ケース スタディや顧客からの肯定的なコメントは、ベンダーの経験が豊富かどうか見極める手がかりとなります。

2.費用が高い。

1 本のゲーム タイトルの制作費の 50% から 70% をマーケティング費用が占めると推定されています。AAA ゲームなら 10 億ドルをゆうに超えかねません。

たとえば Esquire 誌は 2023 年、サマーゲームフェストで 1 分間のトレーラーを上映する費用が 25 万ドルだと報じました。また Statista 社は、その潜在視聴者数が約 1 億 1800 万人と発表しています。他方、Hulu や Netflix などのストリーミング サービスを通じて広告を配信する OTT (オーバー ザ トップ) マーケティングは CPM (コスト パー マイル、またはコスト パー サウザンド) モデルを採用しています。CPM が 25 ドルで同じ 25 万ドルの予算なら、1000 万インプレッションを達成可能です。TikTok のような SNS 広告の場合、CPM の下限は 10 ドルです。IGN や Gamespot などのサイトで数日間ホームページ テイクオーバーをする場合も、費用は少なくとも同額以上かかる場合があります。

イベント マーケティングでは、ブースのスペース、スポンサーシップ、配送費、交通費、人件費、無料配布物などで 25 万ドルからのスタートと考えていいでしょう。費用の内訳について、2017 年の GameIndustry.biz のこちらの記事に説明があります。E3 で 18.5 平方メートルの完全アップグレード ブースにスタッフを数人配置した場合 45 万ドルかかっています。ブースはキングベッドとドレッサーが置けるベッドルームほどの広さで、人が集まるスペースはほとんどありません。同じ年の E3 で Sony が出したブースは 2787 平方メートルでした。

人件費、トレーラーや広告の制作費、ローカリゼーション、交通費、ライブ コンテンツの制作費などはまた別の話です。こういった費用が年々、しかも急ピッチで上がっていることは想像に難くありません。

費用はシーズンによって変動します。本記事が公開される第 4 四半期は年末商戦とリリースのピークが重なり、1 年で最も費用が高い時期です。第 3 四半期には年末に向けたビッグ タイトルのイベントが行われます。第 2 四半期は準備期間となったり、各種発表が行われる時期ですが、第 1 四半期、特に 2 月後半から 3 月はゲーム業界で二番目に大きなリリース期間です。多くのゲーム会社で 3 月が会計年度末となっており、売上のてこ入れが必要となるためです。

「スキルを高める」のが難しい部分ですが、市場の変動を理解してコストを予測し、予算を適切に割り当てるスキルは向上できます。もちろんマーケティングに大規模な予算を組めるスタジオばかりではありません。しかし費用を現実的に見積もり、手持ちのカードで工夫することが何より重要です。低予算ならオーガニックな戦略に専念して、クリエイティブな方法でオーディエンスに訴求する手法を学びましょう。ぜひインディー ゲームのマーケティング戦略の記事もご覧ください。

3.対象オーディエンスを見つける。

ターゲットとなるオーディエンスについて尋ねると、たいていのスタジオで「全員!」という答えが返ってきます。しかし過去の実績から、コア メッセージを薄めて不特定多数にアピールするマス マーケティングよりもターゲットを絞ったマーケティングのほうが効果が高いことがわかっています。オーディエンスとつながりを築くには、誰に向けて呼びかけ、誰に呼びかけないか把握しておく必要があります。

この手法は「ペルソナとターゲティング」と呼ばれており、後々のプロセスでも作成したペルソナに何度も立ち戻ることになります。ターゲットの絞り込みには膨大なリサーチとクリティカル シンキングが必要です。ところが必要な情報が多いほどリサーチ費用がかさみます。ゲーム開発の初期段階での市場調査はときに大変な労力を要します。したがって、まず理想の消費者像を定義することが大切です。理想とするプレイヤーが (文字通りにも比喩的にも) どこに住んでいるか、何が好きで何が嫌いか、何で喜ぶか、何でコントローラーを投げるほどイライラするか、収入や教育の水準はどの程度か、などを考えてみましょう。

手始めに、ゲーム タイトルの強みや、開発にインスピレーションを与えたソースを活用します。開発者はマンガ『ONE PIECE』の最新話が好きですか?『ONE PIECE』の読者で、ダンジョンゲームが好きな人なら、このゲームを気に入るかもしれません。100% 合致する条件を作ることは不可能ですが、近いターゲット像を描くことができます。

次により的を絞った質問リストを作り、一般的な市場調査を実施します。フランチャイズ タイトルの開発を行っている場合は、対象オーディエンスの母集団が判明しているので楽勝です。しかしフランチャイズ離れがあることも理解しておく必要があります。いずれにせよ、業界レポートの確認、前作の販売データの確認、ベンダー マネージャーへの相談、フォーカス グループ調査の実施など、やることはたくさんあります。

もちろん、経験あるパートナーにこの業務を依頼しても構いません。ライオンブリッジ ゲーム部門でマーケティングを専門とするレックス パリシの意見はこうです。

「対象とするオーディエンスを絞り込んだら、疑念を確認することが大事です。ゲームを気に入ると期待できるユーザー グループを特定したら、次は関心度の検証です。ライオンブリッジ ゲーム部門では、少数の参加者をラボに集めて行うプレイテストや、数万人にオンラインで小規模なビルドをプレイしてもらう形で検証を行っています。どちらの手法もフィードバックがすばやく、アイデアを検証してから大規模キャンペーンに移行することができます。目指すべきはデータ オタクです」

この項目から学べることは、第 1 に理想のオーディエンスは全員ではない、ということと、第 2 に調査、調査、調査です!

4.アピール方法だけでなく、買うべき理由を見つける。

現実に目を向けましょう。人を動かすことは簡単ではありません。何かを買ってもらうとなれば、その倍は大変です。オーディエンスの興味を引きつける説得力のある理由が必要ですし、見込み顧客を失わないよう慎重な立ち回りが求められます。

制作したゲームが素晴らしい理由を、あなたはわかっています。自分がプレイしたい理由ははっきりしています。しかし、まだゲームをプレイしていない人に、その魅力をどう伝えますか? 展開のネタバレなしで引き込むように、ストーリーをどうやって説明しますか? しつこく大げさになりすぎないように、どうやってアピールしますか?

「理由」は、そのゲームの個性を形作る要素と、リリースする世間の空気感とが均衡するポイントにあります。多くのマーケティング キャンペーンは少なくとも 1 年以上前から計画されるため難しいこともありますが、コア メッセージを世の中の状況に合わせて適応させる術を身につける必要があります。

例として『あつまれ どうぶつの森』を見てみましょう。シリーズ前作とやり方に大きな違いはありませんが、見事な方法で世界的な現象になったゲームです。不確実な未来、孤独、外出制限がのしかかる状況下で、『あつまれ どうぶつの森』は友達とつながり、屋外を楽しみ、夢の部屋を作りながら楽しく先を予測できるゲームとなりました。

買うべき理由を確立するだけでなく、どのようにアピールするかも決める必要があります。何を売り込むか? どんな言葉で伝えるか? 費用はどの程度かかるか?

ここで製品マーケティングの出番です。開発、クリエイティブ、制作チームと直に連携して各チームのビジョンを確実に保持しつつ、市場調査の妥当性を検証して消費者に何を提供できるか判断します。先行予約ボーナスは提供できるか? スペシャル エディションは可能か? その場合、何をコンテンツにするか? ベータ公開日は? 店頭価格は?

ここでも、支払意思額 (WTP) テスト、価格弾力性テスト、メッセージ テストなどのリアルワールド テストを通じて仮説を検証し、ゲームの魅力を正しく伝えているか確認できます。

テスト。学び。最適化。以下反復。

5. 適切な場所でなければならない。

ペルソナを何度も確認することになる、と先ほど説明しました。その理由を説明しましょう。誰に呼びかけるか、何を伝えるか、どう伝えるかが決まりました。さて… どうやってリーチしますか?オーディエンスを深く理解していれば、彼らがどこの「住人」か検討がつくはずです。

一見簡単そうですが、一般的な人の行動範囲を考えてみると、日常生活の中に膨大なタッチポイントがあることに気付きます。SNS、テレビやラジオ、新聞や雑誌などの印刷物、インターネット、小売店、ライブ エンターテインメント、食事など、思いつくあらゆる機会がタッチポイントになり得ます。

これらのタッチポイントがメッセージングのマトリックスと深く結びついて、何を、誰に、どこで伝えるかが決まります。タッチポイントごとに固有の雰囲気があり、タイプが異なるコンテンツや口調、文体を用いることができます。

たとえばイベントやカンファレンスでは体験が中心ですが、流通小売のタッチポイントではぬいぐるみ、フィギュア、アパレル、ハードウェアなどのグッズが主体です。メディアでの発表はよりフォーマルであるのに対し、SNS はおもしろ動画やミーム、ちょっとした最新情報の発表などに適しています。また、SNS の中でもチャンネルによって注目を集めるコンテンツの種類が違ってきます。Twitter はショート コンテンツやミームに適していますが、YouTube はインタビューや動画広告など視覚的訴求の高いコンテンツ公開に理想的なメディアです。経験価値マーケティングなら、タッチポイントとして期間限定のポップアップ カフェドローン ショー電車のラッピング広告などを活用し、さらに強力なクリエイティブを打ち出すことができます。

ずいぶんありますね。世界的な展開を考えているなら、5 倍のマーケティング アセットが必要になります。しかしここで挙げたマーケティング実践例の予算や人員の条件は、他のどのような案件とも異なることに注意が必要です。社内対応であれ外注であれ、強固なオムニチャネル マーケティング戦略には強固なオムニチャネル チームが必要です。重要なのは、オーディエンスがすでにいる場所でのリーチに専念することです

やみくもに誰もいない場所で叫び、偶然正しいオーディエンスが聴いてくれることを期待するのではなくて、高い精度でリーチしましょう。対象オーディエンスが使うアプリ、よく見るサイトやショップ、滞在時間を特定します。このような情報は、マーケティング リソースを浪費せず予算を効果的に使い、より説得力のあるメッセージを組み立てる上で手助けとなります。

6.適切なタイミングで実施する。

ゲームのマーケティング実施時期はいつがベストでしょう? ローンチ前? ローンチの時? ローンチの後? そう、答えは上記の 3 つすべてです。マーケティングは、ゲームのライフサイクルに渡って展開されます。単純明快な話ですが、業務は複雑で目まぐるしくなります。

ローンチ前の段階は、ゲームへの関心を高めて先行予約を促進する重要な時期です。先行予約は小売店の売上に貢献するだけでなく、協力資金の確保にも役立ちます。特定の小売店での店頭マーケティングに一定の予算を投入する場合、双方の利益につながるため小売店も同額を負担することになります。1 点の先行予約は、小売店で 3-5 点の販売と同程度の利益を生みます。

ゲームへの関心や先行予約数は、ローンチの発表、大規模イベントでのトレーラー公開、インセンティブ、ローンチ 36 時間前の各タイミングで急上昇します。興味を引きつけて盛り上げるタイミングを正しく定めることが重要です。世間の動向を注意深く見極め、ゲームの売上に有効なタイミングで収益化を図ります。

ローンチ時の目標は、ローンチ前に引きつけたオーディエンスのゲームへの関心を保ち、ローンチ後のアクティビティにスムーズに移行することです。最初の 24-48 時間が過ぎたら、レビューやオーディエンス エンゲージメントを確認し始めましょう。マーケティング戦略は、制作コンテンツへの注目を高めるフェーズからカスタマー サポート、場合によっては DLC の制作へと移行します (DLC のリリースでは、一定の離脱率の下でこのサイクルを繰り返します)。また Steam サマー セールや Amazon プライム デーなどもゲームのライフサイクルに組み込み、収益化の要素として検討することになります。

売上の数字に気を取られがちですが、カスタマー サービスとコミュニティ管理の影響を甘く見てはいけません。サポートが足りないとプレイヤー層が不快感を持ち、今回のゲームだけでなく今後ローンチするすべてのゲームの売上に影響が出てきます。

タイミングの話で言うと、ほとんどの AAA ゲーム (および一部の AA ゲーム) は、ローンチ後 24 時間以内に収益の大部分を上げます。つまりマーケティングはローンチのだいぶ前から効果が出ているということになります。ライフサイクルで常にいい状態を保つことは必須ですが、ローンチ発表前からマーケティング戦略をしっかり計画しておくことが大事です。

結論として、マーケティングは難易度が高いと思うのはごく自然なことです。しかしイライラするからといって、学ぶことをあきらめないでください。ゲーム制作のプロセスにおいてマーケティングは不可欠です。ゲームをグローバル展開するための教育リソースはたくさんあり、専門知識を持ったスタッフも大勢います。

次回作のマーケティングでサポートをお探しですか?ゲームを成功に導くために、ライオンブリッジ ゲーム部門のマーケティングのプロにぜひお問い合わせください。


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著者:
アビゲイル スマザーズ (共著者レックス パリシ)